部長とあたしの10日間
「ここから部屋までの間にストーカーに襲われたら、部長のせいですよ」


我ながら無茶苦茶な理由だとは思ったけれど、子供じみた手を使ってでももう少し一緒にいたい。


「仕方ない奴だな…」


部長は大袈裟に息を吐いて車のエンジンを落とした。


思いの外、雨足が強い。
新しいパンプスを気にして車から降りるのをためらっていると、部長が外から扉を開けて傘をさしてくれた。


「すみません…」


男物の傘とはいえ、大人二人が入るには少し小さい。
あたしがブランドのバッグを胸に抱えながら傘に入り込んだとき。


「もっとこっちに寄れ」


グイッ。
ふいに部長があたしを抱き寄せた。


急に距離の縮まった部長を驚いて見上げると、それに気付いて端正な顔がこっちを見た。


「そんな顔するな。
二人で濡れるよりマシだろ」


そんな顔って。
熱視線を送るあたしの顔は、部長の目にどう映っているんだろう。
< 77 / 146 >

この作品をシェア

pagetop