部長とあたしの10日間
エントランスのロビーで部長は傘を畳むと、肩に付いた雨粒を払う。
その高そうなコートとは裏腹にあたしはちっとも濡れてないということは、部長が傘をあたしに寄せてくれたことに他ならない。


なんだかんだ言って、フェミニスト。


最悪だった部長の第一印象は日に日に良くなるけど、その目にあたしはどう映っているのだろう。
もし遊び相手のリストがあるのならば、その末端に加えられるくらいには興味をもってくれているだろうか。
あたしは内心で部長に問いかけつつ、部屋に向かった。


3階の角部屋の前で足を止めたあたしは、バッグからキーケースを取り出して、ここまでなんとか付いてきてくれた部長を振り返る。
そして扉を開きながら、できるだけ平静を装って聞いた。


「お茶…飲んでいきませんか?」


唯一、部長があたしを褒めてくれた取り柄。
それを利用しないと部屋に誘うこともできないなんて、あたしも落ちぶれたものだ。
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