部長とあたしの10日間
慎重な部長のことだから、簡単に誘いに乗ってこないだろうとは思ったけれど、


「そうやって誤解されるようなことを言う奴が、ストーカーに狙われるんだ」


まるであたしを諭すように、そんな想定外の言葉を返してくるとは思わなかった。


ストーカーなんて、部長を家に呼び込むために適当に言っただけなのに。
信じるどころか、心配までされるなんて、もしや遠回しに振られているのではなかろうか、なんて疑心暗鬼になる。


でも、せっかくここまで来たんだからこのまま帰らせたくない。
部長だって、何だかんだいって家まで付いてきたなら、少しくらいはこの後のことも想像してたっていいんじゃないの?


とはいえ。
部長にしてみれば、あたしが関係を持ってもいい相手なのかどうか、判断する材料が足りないのかもしれない。
上司という立場上、どうしてもリスクがあるから、あたしに強引に迫られて拒みきれなかったという逃げ道だって欲しいくらいだろうし。


「ーーー誤解じゃないです」


こっちから誘うしかないってことだ。


「部長にだったら、それ以上のことをされても大丈夫です」


あたしの言葉に部長は切れ長の目を見開く。


そしてしばし沈黙したかと思うと。
大きく溜め息をついた後、ゆっくりあたしに向かって手を伸ばした。
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