部長とあたしの10日間
こんなに誰かを求めたのは初めてだ。
部長があたしに触れるのを想像するだけで胸が押し潰されそうになる。
息さえ上手くできない。
まるで恋愛を覚えたての子供だ。


早く触れてほしい。
ううん、いっそめちゃくちゃにして欲しい。
あたしはどうやらMだったみたいだ。


だけど。


「───冗談はそのくらいにしとけ」


そんな期待とは裏腹に、部長は呆れた様子であたしの額を小突いた。


「冗談じゃ…」


「俺をからかうなんて、百年早いよ」


その口ぶりから察するに、部長はあたしの誘いを本気で冗談だと思ってる。
遊び相手どころか、完全に対象外なんだ。


頭を抱えて黙りこくったあたしに、部長は困ったように眉を寄せる。


「───悪い。
そんなに強く小突いたか?」


やっぱりそうだ。
部長はあたしのこと何とも思ってない。


昨日周囲の視線から守るために抱きしめたのも、さっき雨を避けるために抱き寄せたのも、それ以上の意味はなくて。


あたしを家まで送るなんて言い出したのも、こうして部屋まで付いてきてくれてるのも全部、単なる上司としての責任感だったんだ。
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