部長とあたしの10日間
部長の周りにはどんどん人が集まっていく。
あの几帳面さと威圧的な態度でてっきり部下から怖がられてると思ってたけれど、取り巻くみんなの表情からむしろ慕われてるのだと分かる。


あたしが小泉部長の良さに気付いたのはごく最近。
ここにいる全員が、部長のことをあたしなんかよりずっとよく分かっていると思うと、出遅れているどころか、周回遅れのようで悔しい。


「遅いじゃないですか。
待ちくたびれましたよ」


木崎さんが部長のグラスにビールを注ぎながら話しかけると、


「主任と何やってたんですか」


「夜に二人きりで」


完全に酔いの回った周囲が同調するように囃し立てる。


真偽はともかくとして、二人が恋人だという噂は、毎日一緒に働いてる企画部の中でも共通認識になっているようだ。


「お前ら飲み過ぎだぞ。
───葛城、こっち来て」


部長は木崎さんをたしなめるように言った後、当たり前のように自分の横に葛城主任を据えた。


関係を否定しない上、この期に及んで隣に呼ぶんだ。
ていうか、葛城主任も当たり前のように部長にぴったりくっついてるし。
やっぱりどう考えても、二人は普通の上司と部下の関係以上に見える。


和田さんはそんな二人を見てどう思ってるんだろうと隣に目を向けると、既にそこに姿はなかった。
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