部長とあたしの10日間
仲良さげにメニューを眺める二人をぼんやり見ていると、ふいに沙織に腕をつつかれた。


「部長の隣、行けば」


部長に視線を戻すと、偶然彼と目が合った。
ということは、部長は今あたしを見ていたことになる。


けれど、あたしの胸の高鳴りをよそに、部長はすぐに企画部の面々に向き直ってしまった。


和田さんが上手いこと誘導したからか、部長と主任の間にはあたしが入っても余りあるくらいのスペースが空いている。


「頃合いを見計らってるのよ」


あたしは社交的な方だし、相手に敵意がない限り、きっと誰とでも打ち解けられる。
だから決して、あの企画部の輪の中に入っても大丈夫な自信はある。
だけど、やっぱりそれなりに勇気はいる。


「あんたなら、酔った振りでもしてしなだれかかれば大抵の男はお持ち帰りしてくれるんじゃないの?」


沙織の言うことは当たらずとも遠からず。
あたしもずっと、男はそういう生き物だと思ってた。


だけど部長は別。
アイツはあたしが抱かれてもいいって言ったのに何もしなかったんだから。


「あの男にその手は通用しないのよ」
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