部長とあたしの10日間
部長は廊下の隅に設置されたソファーに腰を下ろすと、慣れた手つきで煙草に火を付けた。
白煙を燻らせる様子からさえ目が離せないのが恋という魔物なのだろうか。


「───部長って煙草吸うんですね」


あたしが隣に腰掛けながらつぶやくと、部長はちらりとこちらを見て、再び視線をよそに向けた。


「吸ってるところを普段見かけないから、てっきり嫌煙者だと思ってました」


「───気分を落ち着けたいときにしか吸わないよ」


部長は特に反応のないまま、そう煙を吐いた。


「…何に落ち着かないんですか」


部長は黙る。
そのまま何も続けようとしない部長に確信する。


「もしかして和田さんと葛城主任のことですか」


部長はゆるりとあたしに視線を向けたかと思うと、ばつの悪そうな顔で、付けたばかりの火を消した。


部長ってこういうとこバカ正直なのよね。


二人がデキているのかどうかに気をとられて、大事なことを忘れていた。
例えデキていなかったとしても、部長の心の中に主任がいるかどうかが大事だったんだ。


飲みの席を立ってこんなところで煙草を吸っているということは、仲のいい二人を見ていられなかったからに違いない。
やっぱり、部長は主任が好きなんだ。


想定の範囲内なのに、何でこんなに悲しいんだろう。
余裕ないな、あたし。
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