部長とあたしの10日間
「 ───荷物を届けるために、わざわざ追いかけて来てくれたんですか?」


そう問うと、部長は今思い出したかのように慌ててあたしにコートを被せる。


「全く、こんな寒空の下でコートを忘れていく奴がいるとは思わなかったよ」


ダウンのコートは暖かいけれど。
さっきまで部長の腕に包まれていたあたしには、これじゃもう物足りない。


「だいたい、何で駅と反対方面に来るんだ。
おかげで随分探し回ったんだからな」


だから息が切れてるんだ。
街中をあたしを探して駆け回る様子が浮かんで、胸が苦しくなる。


「オッサンを走らせるな」


部長がたしなめるようにあたしの頭をこつんと小突いた。


部長はオッサンなんかじゃない。
あたしにとって誰よりも魅力的だよ。


「放っておいて良かったのに…」


「え?」


「あたしのことが嫌いなら、荷物なんて届けてくれなくて良かったのに」


ただお礼を言えばいいだけなのに。
こんなときまで素直になれないなんて、あたしはなんてひねくれ者なんだろう。
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