忘れ去られたキオク
「あ...、ごめんなさいね。
私には『死』というものが当たり前すぎて、そういうことにアバウトになっていたかもしれないわ」
アイリスはピアノの蓋をガタンと閉めると、ゆっくりと立ち上がった。
「それで...どう? 彼女の方は」
「いえ...。 特に変わったことは」
『天国からは中継地も地上もよく見える』。そう言っていたアイリスを思い出してもなお、嘘をついた。
すぐにばれる、いや、ばれているだろう。
だけど、アイリスは気付かないフリをしてくれているのか「そう」と言いながら微笑んだ。