忘れ去られたキオク
俺の...指名。
その言葉が胸に刺さって、動けなかった。
俺が固まっているうちに、アイリスは「あ 、天国にお客さんが来たみたい」と言うと 、真っ白なローブをひるがえして カーペットの上を歩いていく。
そして毎回のように、手をかざして扉を開けるアイリスの後ろ姿を見ると、ハッとして。
さっきまで固まっていた自分の体が嘘かのように、アイリスの背中を追いかける。
大きな音をたてて閉まった扉を開けて、叫んだ。
「──アイリス様...!!」
──椎菜がここで10年を迎えたときには、何が起こるんですか!?
そんな言葉は、一瞬のうちに消えてしまったアイリスには届くこともなく、俺の心の中に静かに溶けていった。