忘れ去られたキオク



アイリスがそう呟くと、ピアノの蓋を開け 、鍵盤にゆっくりと指を滑らせる。



弾いたのはやっぱり「別れの曲」。



でも俺はアイリスの弾く、どんなに上手で 、どんなに滑らかで、どんなに好きな曲で も、あの曲が聞きたかった。



椎菜が弾く、下手くそな「ねこふんじゃった」。




俺も多分、アイリスと同じ心境だ。


会いたい人がいるのに、会えない。


そして、違う人と悲しみを分かち合う。


今の俺とアイリスの姿、そのままだ。



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