コスモス

水路


音楽はここから切り放され、小さな心に鍵をかける。ロックと、パンク、ハードコア。雑音の厚い壁が現と、彼自身とを無縁にする。ある種の責任逃れだ。黒澤順一の目指した芸術なのかもしれない。順一は、クラシックとアニメソングしか聞かないけど、おたくではない。
昔ながらのヒーローに憧れ、アメリカ的な部分を持ち合わせているにすぎない。ところで、ロックを聴く彼は、横井幸一という高校生だ。彼は、可愛い彼女がいるけれど、彼女とは、心がすれ違っていてなかなか出かけることがなかった。
抵抗があった。関係性があることに、彼女が可愛いことは、万人が認めるが、しかし肉体的に関係があることを大衆に晒すことが、一番抵抗があった。
それは思春期にありがちな、セックスへのコンプレックスからかもしれない。
幸一には、オープンな人間関係を築いている筈なので、まさかそんなことは、ガキみたいなシャイな部分があるなんて…禁欲生活における崇高な僧侶たちは、神との対話より、そのコンプレックスを隠しているのかもしれない。仏教の考えに至っては、死を目標とし、シャバに出ことは、極楽浄土へたどり着く為のたましいの磨き場所なのだから、もしも仏教が真理なら、セックスへの抵抗はあるのが当たり前だ。
しかし、まったく色気が無いのも恥ずかしいものだから、彼女がいる。恋人がいる。
生きることは、矛盾だらけだ。
幸一は、まだ少年だった。社会に出る大人の無くした矛盾と照れ、順一の持っていない感性をまだ、秘めている。

海に行く約束をして、彼は彼女の家で眠り込んだ。
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