もっと、さわって。
 そして、私が連れ込まれたのは構内の多目的トイレ。

 カシャン、と後ろ手に鍵を下ろした瞬間――私は唇を奪われていた。


「ふっ、ん……」


 切ない吐息が唇からもれる。
 背中に回された腕が、後頭部を支える大きな手が、唇が、舌が、熱かった。


「なに、勝手に触られてんだよ……俺もまださわったことねえのに」


 唇が離れて、私の耳元で言葉を紡ぐ。
 彼の腕に強く抱かれて、私は胸の高鳴りと安堵を感じていた。


「ごめんなさい……」

「だから、謝んなって」


 彼の表情は見えなかった。
 でも、さっきとは違う。
 背を向けられてるからじゃなくて、うんと近くにいるから。
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