秘密の夜
「あ、やっぱり。さっき、ライブ観に来てくれてたよね? 今日は、ありがとう」

ヴォーカルの彼はそう言うと、にこっと人の良さそうな顔で、笑った。

うそー、うそー!!
私が大好きな、ヴォーカルの彼だ。

ライブは何度も観に行ってたけど、今まで、話したことなんて一度もなかったのに。しかも、彼のほうから、話しかけてくれるなんて、信じられないっ。


「えっ、わ、私のこと、わかったんですか!? 前の方は、他のファンの子達でいっぱいで行けなくて、一番後ろで観てたのに」

「あぁ、うん。後ろの方にいても、ライトが当たればお客さんの顔は見えるし、ライブ中って、案外、ステージの目の前より、後ろの方を見ながら唄うことの方が、多いよ」

「そうなんだぁ……」


ドキドキ。胸の鼓動が、早鐘のように鳴り出す。

「あ~、ライブ中、ずっと緊張してたから、お腹空いた。ね、このあと、時間ある?」

「あ、はい。終電までだったら」

「よかったら、メシ付き合ってくれない? ライブに来てくれたお礼に、おごるよ」
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