アンラッキーなあたし
魔女が穏やかな笑みを浮かべている。

「この方がお付き合いしている千葉さん」

「千葉翔太です。さくらがお世話になってます」

何百回も練習を重ねたご対面の演技は,我ながら驚くほど自然だった。

「あら、さくらにしてはいい男見つけたじゃない」

いつもより1オクターブ高いルコ先生の声がその機嫌のよさを物語っている。

「さあ、おかけになって。お茶でも」

「あ、あたしが用意します」

とはいえ、油断は禁物だ。出来るだけ早くここを去りたい。

「さくらは座ってて。さあ、千葉さんとやらもくつろいでちょうだいな。といっても、こういう場でしょう。くつろげないとは思うけれど」

「はぁ…」

千葉は館の中を物珍しげに眺めている。水晶玉やカードや販売用のブレスレットやお香が所狭しと並んだ占いの館は、男の人にとっては落ち着けない場所なのだろう。
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