アンラッキーなあたし
「だから、一体どうしたっていうんですか」

千葉の声が微かに震え始めた。さすがの千葉もルコ先生の変わりようにひるんでいる。

「私はね、あんたたちがここへ入る前からずっと見てたんだよ。そこの窓からね」

そう言ってルコ先生は窓を指差した。

「あんたら、館に入る前は離れて歩いてたくせに、ドアをノックする寸前に手を繋いだだろ?しかも、二人ともご丁寧に手汗を拭いてからさ」

みーらーれーてーたー。

「そ、それは…」

どうにか千葉がこのピンチを切り抜けてくれることを期待したが、あいにく、これは、あたしたちのシナリオにはなかったパターンなので、咄嗟に言い訳が思いつかないようだ。

「どうせ演技するなら家出た瞬間から恋人ごっこせんかい!」

もういいわけ不可能と判断したあたしは、

「おゆるしをー!」

とひれ伏してた。

「ばか、さくらば!」

千葉がおろおろする。けど、もうだめだ。万事休すだ。

「千葉さんも謝ってください。こうなったら、もう無理です」

これ以上の悪あがきは死を意味するということを、あたしは、ルコ先生との長年の付き合いから学んでいる。こんなあたしでも、命は惜しいのだ。

「ふん。せっかくチャンスをやってっていうのに、恩を仇で返しやがって」

ルコ先生は明らかに、怒っていた。あたしはもうひれ伏す他ない。千葉も諦めたようにソファーに座った。
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