アンラッキーなあたし
「すみません、さくらさん、ですか?」

どっきーん!と、映画マスクみたいに心臓の飛び出たあたし。

恐る恐る振り向くと、そこには写真より数倍もカッコイイ男が立っていた。

「さくらさんですか?」

「い、いかにも」

緊張のあまりに武士口調になってしまった。最悪だ。けど、異性に名前を呼ばれるなんて何年ぶりだろう。感無量である。占いの予約をキャンセルしてここへ来た甲斐があったというものだ。

「はじめまして。土屋瞬です」

土屋瞬がぺこりと頭を下げる。

「桜庭です。あ、下の名前はさくら」

スポーツ選手みたいにすらりとして垢抜けた男に、あたしはただただ圧倒されるばかりである。

「じゃあ、さくらさん。こんなところじゃなんだから、とりあえず何か食べに行こう。ちょうお昼だし」

土屋瞬は人工的に白い歯を口元から覗かせ笑うと、颯爽と歩き出した。
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