アンラッキーなあたし
予約しておいたというお店まで行く途中、あたしは何を話したかまったく覚えていない。

こんないい男と並んで歩くなんて、それだけで恐れ多い。すれ違う女の子みんなが瞬を振り返り、そして隣にいるあたしを見て怪訝な顔をしている…。ような気がしてならない。

瞬は色々話しかけてくれたけれど、あたしはどの質問にもまともに答えられなかった。

瞬が連れて来てくれたお店はカジュアルな雰囲気のフレンチのお店で、あたしは少しほっとした。けれど、メニューを見ると値段はそれほどカジュアルではない。少なくともすきやの牛丼がご馳走のあたしにとっては高級店である。

グランドピアノが置いてあるフレンチのお店でイケメンとランチなんて、あたしの人生のワンシーンにあっていいのだろうか。もしかして、あたしは狐か狸に騙されているのではないかと思ってしまう。この、グラスに入ったミネラルウォーターが狸の小便だったらどうしようと考えずにはいられない。

メニューからそっと顔をあげ、瞬を盗み見ると、目が合った。

瞬がにっこりと微笑む。たまらずあたしはメニューで顔を隠した。

こんな素敵な人なら、狐でも狸でもイタチでもよい。ゴリラを彼氏にしようとしていたあたしは、もはや、恐いものなしである。
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