アンラッキーなあたし
「あの、どうかされました?今、ちょっと立て込んでまして」

アユカが言うと、

「実は、このビルに凶悪な殺人鬼が逃げ込みました」

ドアの向こうから、警察官がそう声を荒げた。

「殺人鬼!」

アユカが小さく悲鳴をあげ、こちらを振り返った。

「つっちー、凶悪な殺人鬼ですって!アユカ、恐い」

アユカが涙目になるのを見て、おめーらも凶悪な詐欺師だろうが!とつっこみたくなった。

「ああ、なんてこった」

瞬も顔を真っ青にしている。人に刃物を押し付けておきながら、殺人鬼に怯えるなんて矛盾もいいところだ。

「さあ、ここを開けてください!今すぐ私と一緒に外へ非難してもらいます。開けてください」

警察官がドアを激しく叩く。

それにしても、あたしって、なんてついていないのだろう?詐欺師フィーチャリング凶悪殺人鬼って…。

「つっちー、どうしよう」

「どうしようったって…」

二人は困惑している。せっかくのカモ(あたしだ)を逃すのは惜しい。けど、命はもっと惜しいといった心境であろう。

「に、逃げようよ。アユカ、死にたくないもん」

とうとう命を選んだアユカがドアに向かって走り出した。

「あ、待て!開けるな」

瞬が止めるのも聞かず、アユカは玄関のドアの鍵を開けてしまった。
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