アンラッキーなあたし
「あんのぉ、自分。松本って言います。歳は36歳。仕事は、まぁ、今は言わなくてもいいですよね?」

テーブルに座るやいなや、カピバラさんは聞いてもいないのに自己紹介を始めた。しかも職業秘密とは何ごとか。こういう場では、職業がかなり重要なポイントになるというのに。

「桜庭さくらです。職業は…家事手伝いです」

そういうあたしも、占い師という職業は伏せた。ついでに年齢も伏せてやった。けれど、家事手伝いという辺りは半分本当の事だ。あたしは千葉の家の家事をしている。

「え、家事手伝い?あなた、お嬢様なの?」

「いえ、まったく」

借金があって、他人の家に居候させてもらってるんです。家事はその代償です。とは言えない。

するとカピバラさん、明らかに落胆し、大きなため息をついた。

「僕、自立した女性を求めてるんです。例えば、看護師や、保育士や、美容師とか、資格を持ってる人。公務員や銀行員だったら最高だな。ほら、僕、体が弱くて働けないからさ」

カピバラさんはしれっと言った。

はあ?こいつ、要は無職?女に食わしてもらう気なの?

自分だって無職寸前のくせに、あたしはカピバラさんに軽蔑の眼差しを向けた。
< 250 / 354 >

この作品をシェア

pagetop