アンラッキーなあたし
もうこれ以上こいつと話ことなど何もない。あたしはようやくカピバラさんから離れる決意をした。

「あの、あたし、他の方ともお話してきます。松本さんも、どうぞ楽しんでください」

そう言って腰を浮かせようとすると、カピバラさんはがっくりとうな垂れた。

「あの、僕、もうみんなとお話してきたんです」

「え?」

「その、つまり、誰にも相手にされなくて。さくらさんが最後の相手なんです」

えー?まじですか?

そんなこと言われたら浮かせた腰を戻すしかない。あたしはどこまでお人よしなのだろう。

「僕、こんなんだから、昔から女性に縁がなくて。結婚どころか恋人すらいたことがありません。お見合いパーティーも何度か参加してるんですが、女性とお話すらまともにできないんです。笑っちゃうでしょう?」

ハハハと、カピバラさんが力なく笑う。いつの間にか、あたしはカピバラさんに同情していた。あたしも同じだ。あたしだって、カピバラさんが話しかけてくれなかったら、きっと誰とも話せずに終わっていただろう。

「このパーティー。ラストは男性からの告白タイムで終わるんです。男は必ず誰かに交際を申し込まなくちゃいけない。僕は、勿論、一度も成功した事なんかない。それどころか、僕が告白しようとすると女性は露骨に嫌な顔をするんだ。こっちだって、妥協してやってるのに、ちくちょっ」

カピバラさんが親指の爪をぎりぎりと噛んだ。

確かに、そりゃきついわな。心も曲がるわな。けど、よく考えたら、振られる男も惨めかもしれないけれど、それと同じくらい告白されない女も、また、惨めなのでは…?ある意味、さらし者。公開処刑である。

い、いやー!

あたしはここまで来てさらし者になんかなりたくない。金払ってまで(千葉がチケットを買ったので払っていないのだが)惨めな気分を味わうなんてとんでもない。それだけは避けたい。

焦って腕時計を確認したすると残り時間5分を切っていた。

ああ。カピバラなんか相手にしてるんじゃなかったぁぁあ。

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