アンラッキーなあたし
後片付けを済ませ戻ってくると、中田さんが会社のクソじじいたちにぺこぺこしているのが見えた。

あんなクソに頭下げる必要なんかないのに。

あたしは、そっと柱の影から中田さんの姿を覗き見る。

中田さんは今時珍しいくらいの好青年だ。髪の毛だって染めていないし、ピアスだってしていない。タバコだって多分吸っていない。顔は中の中と言ったところだけれど、とにかく優しいのだ。

「あ、桜庭さん」

あたしに気づいた中田さんが声をかけてきた

「は、はい!」

思わずあたしはきおつけの姿勢になってしまう。さっと汚れた雑巾を後ろに隠した。

「さっき、お茶こぼしてたけれど、大丈夫?火傷、しなかった?」

中田さんに心配された嬉しさと、失態を見られた恥ずかしさで、あたしの体は大炎上。富士山だったらドカーンだ。

壊れたブリキ人形みたいに首をかくかくするあたしに、それはよかった、と中田さんが人の良さそうな笑みを浮かべた。その笑顔にノックアウトされたあたしは、恥ずかしくて思わず髪の毛で顔を隠す。あざのある右側はいつも隠れているので、左側を。そしたら、顔全体が髪の毛で覆われ、どっちが後ろだか前だかわからない状態になってしまった。
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