丹後の国のすばる星
吉備津彦は、弓矢が死ぬ直前の会話を回想するかのように、夢の中で再現していた。
「わたしが温羅一族の末裔だったのです…」
弓矢比売はそういうと、自分の胸に小太刀を突き立てた。
吉備津彦は弓矢を止めようとするが、遅かった。
「これで島子様は助かります…わたし、皇子のお嫁さんになれてよかった…楽々森彦(ささもりひこ)の娘であったときから、ずっとあなたをお慕いしていました。あなたがわたしをそれほど愛していないことも…」
「そんなわけないじゃないか。弓矢のことは好きだったよ」
吉備津彦は弓矢を抱きしめながら、頬を伝う涙を拭おうともせずに、感情をこめ心のうちをありったけ見せて、語って聞かせた。
「わかるんです…あなたが好きだったのは、きっと…あずみさんです。でもいいの、これで少しでも楽になれたら。だってわたし、ずっと苦しくて…ようやく解放されるのね…」
「ちがう。あずみはオレにとって、そんなんじゃ」
吉備津彦は握りしめていた腕がぐったりしたので顔を上げ、弓矢を見た。
比売は、静かな…安らかな表情で息絶えていた。