月夜の桜
第1章
――物ごころついてからずっと思っていたことがある。






人とは違う瞳と髪を持った自分は、一体何者なのだろうと。






特に異質な力を持っている訳でもない。神のご加護を得たわけでもない。






何の変哲もない、他人と変わらずに生れて来た自分。





それなのに、どうして人と外見が違うのか。





己の桜色の髪が目に入るたび、琥珀の瞳を見るたびに自分をこのような姿で地上に生みだした神を、何度となく呪いたくなった。





愛想笑いを向けられるたび、陰口を聞くたび死を望んだことなど数知れない。






――呪われし姫君。






人は自分のことをそう呼んだ。髪や瞳の色が違うのは、神の怒りをかったからだとか。






自分にかかわれば、その者も神に呪われる。






だから誰も、彼女には近付かなかった。






人から忌み嫌われる存在。そんな自分は、とうとう父にまで捨てられた。





砂をちりばめたかのように夜空に輝く数多の星々。





その中心にどこか冴え冴えと光る満月は、今日も今日とて美しい。





すのこに腰掛けて足をぶらぶらとさせていた少女は、眩しげに目を細めて満月を見つめる。





生きとし生けるものが全て寝静まり、人ならざるモノたちが動きだす時間。





普通なら、彼女のような少女がこんな時間に起きていれば誰かしら注意するのだか、彼女を注意するものは誰もいない。





どころか、無駄に広い邸には彼女以外に人の気配は少しも感じられなかった。


















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