月夜の桜
だんだんと頭の痛くなってきた彼女は、考えていても埒が明かないと判断し難しい顔のまま威月に視線をやった。





「どなたが私を呼んでいるのですか?」

「我が主、神でございます」





さらりと言ってのけられた言葉に、桜は己の耳を疑った。



今、彼は何と言っただろう。



神と、そう言わなかったか。神が自分を呼んでいると、そう言っているのか。



目を見開いたまま絶句する彼女に、微笑を返す。





「驚かれるのも無理はございません。ですが、これは真実なのです。神があなたをお呼びでございます。――沙良姫様」

「どうして、神が、私を……」




聞きなれない名に首をかしげつつ、何とか声を絞り出すと彼は満面の笑みで深くうなずく。





「それは――あなたが神の子であるからです」

「――は?」





人とは違う髪と瞳をもつ自分。



神の怒りを買った姫として、人に忌み嫌われ実の親である父に捨てられた彼女。



その彼女が神の子であると。妖ならばいざ知らず、神の――……。





「嘘、でしょう?」

「いいえ。真実でございます」

「だって、呪われた姫である私が神の子であるはずが……。だ、第一! 私は人と人の間から生まれたのに!」





思わず丁寧な言葉づかいすら忘れて、信じられないと言うように首を振る。



今上帝たる父と、姿を見たことのない母との間に生まれた桜。


人と人との間に生まれた者が、神の子となるはずがない。













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