月夜の桜
その頃はかなりの衝撃を受けて食事も喉を通らなかったものだが、成長した今、その噂の意味はちゃんと理解出来る。






「――私は、いらない存在」






ぽつりと零れた呟きは、そよ風にさらわれどこへともなく旅へと向かう。





ぼんやりと夜空を見上げていた桜は、どうしようもない寂しさに襲われ単衣の上から胸元をぎゅっと握りしめてうつむいた。





少しでも気を抜けば溢れだしそうになる涙を唇を噛んでぐっとこらえ、瞳を閉じる。






人とは違う、色鮮やかな髪。






人とは違う、琥珀の瞳。





この髪と瞳が普通であったなら普通に暮らせたのだろうか。





両親に愛され、今もこんなところに閉じ込められず大内裏で姫として暮らせていたのだろうか。





(あぁ、でも。私ぐらいの年だったら名のある方と結婚しているかしら?)





貴族の娘は恋愛が出来ない。





――いや……、してはいけないと言うべきか。




階級が上がれば上がるほど、貴族の姫に自由はない。





恋など、一番してはいけないものの類いだろう。




貴族の娘は、家のために愛なき結婚をするのがほとんどだ。
















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