月夜の桜
今まさに土下座しようとしていた威月は怒られるとでも思っていたのか、桜の言葉に目を丸くし彼女を凝視する。




それに少しばかりの居心地の悪さを感じながらも、微笑を浮かべると彼も同じように穏やかな笑顔を浮かべた。






「お優しいのですね。姫は」






少し、申し訳なさの入り混じったその表情に思わず桜は息を呑む。




舞散る桜の中、銀の光を纏う彼はどこか神々しく儚げで見惚れるほどに美しい。




ともすればこのまま光の粒子となって消えてしまいそうな彼に、桜は無意識に手を伸ばした。




嫌だ、と思ったのだ。これは夢だと理解していながら、彼と離れることが――夢が覚めることが、嫌だと。





桜の手が威月の白い頬に触れる。彼は目を見開いたまま硬直していたが、桜の両手が己の両頬を包んだことに我に帰り、慌てて彼女の手首をつかむ。






「い、いけません。姫。私などの身に触れては、気高き御身が汚れてしまう!」

「え? あ、わっ。ご、ごめんなさい!」






我に返った桜は自分の行動に目を見開き、顔を真っ赤にして彼の頬から手を離す。




(私……何を……っ!)




自分のあまりにも大胆な行動に、桜は頬を両手で挟みこみ激しく頭を振る。




けれど、いくら頭を振っても先ほどの光景は脳裏から消えてくれない。




焦りやら恥ずかしさが桜を襲い、彼女は頭を抱えて座り込む。





「姫!? どこかお加減でも悪いのですか!?」




そんな彼女の行動に、体調が悪いと勘違いした威月は慌てたように桜の前に回り込むと、座り込む彼女に目線をあわせて頬を抑えている両手の手首をつかんだ。




突然のことに驚いた桜は目を見開き、数秒固まっていたがあまりにも心配そうな彼の表情に彼女は急いで首を振る。






「だ、大丈夫です! どこも具合なんて悪くないですから、お放し下さいっ」







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