《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
⑩三浦俊也〜スクランブルした結果〜
★★★
彼女は、思った以上に華奢な体をしていた。強く抱きしめたら壊れてしまいそうなくらいに…。
「行かないわよ」
耳元で彼女が強く発した言葉に眩暈を覚えそうだった。
ハグをしたまま、どうにか倒れそうになるのを持ちこたえた俺に、彼女はなおも続ける。
「絶対に行かないから」
う……マジかよ。
「……」
彼女の背中に回した手に自然と力が入ってしまう。が、彼女の方はといえば、俺の背中に手を回すことは一切無かった。
「……」
本当は軽く『そんな冷たいこと言わずにさ、来ればいいじゃん』とか言ってしまえる男なら良かった。『頼む、この通り』とか拝み倒せたとしたら、それはそれでめでたしだった。
でも、俺にはカッコ悪すぎて、どうすることもできなかった。すっかりダサい事にこんな時にも体裁を気にしていた。
年上の彼女に、やっぱり年下だから……と馬鹿にされたくない、そればかりを考えていた。
『好きにさせてみせる』なんて、大見栄もいいとこだ。
俺を嫌っている彼女に、どうやれば好意を抱いてもらえるのかが全くわからない。
ただ、唯一の救いは、こうして抱きよせても彼女に逃げる様子はないってことだろう。
「来るまで待つ」
「冗談やめてよ」
俺の胸を押す彼女。
倒れそうなくらいだった俺の体は、軽く押されただけで彼女から離れてしまった。
「とにかく……明日……待ってるから」
怒ったような口調で、彼女に言って背中を向けた。
いっぱいいっぱいだ、俺。
その場でしゃがみこんで、情け無い俺の頭を両手で抱え込みたい気分だった。