《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
彼女は、もう帰っただろうか? 今夜も合コンに出てる俺を見て、余計に嫌いになったんじゃないだろうか?
明日、彼女は俺の家に来るだろうか? 来るとは思えないよなぁ。だって、彼女は俺を好きじゃないんだから。
今まで自分から告白したことなんか無かった。告白されて嫌じゃなかったら、なんとなく流れで付き合っていた。
初めてだ。俺から告白したいと思った女。付き合いたいと心から願う女。
彼女に会えば会うほど、俺のなかのどきどき感が風船みたいに大きく膨らんでいく。今まで思い描いていた彼女とは掛け離れている部分を知った。
クマが好きなところ、少女みたいな部屋に住んでいるところ、飾り気の無い人でさっぱりしてるが、時々びっくりするくらいに可愛く頬を染めたりする。
結果、前のめりに突き進んで行きたいほどに彼女に好意を抱いている。
今までに会ったことのないくらいに話してて面白い女で、普通に見せる仕草はどこか素朴で新鮮。
彼女に嫌われたくない。
彼女を好きだと思うより強く、俺は彼女に嫌われたくないと感じている。
渋谷のスクランブル交差点を駅へと渡りながら、俺はひたすら歩いていた。こんな風にたくさんの人が暮らす街で彼女に出会えたことに俺は感謝している。
スクランブル交差点を渡りきり、俺は後ろを振り返ってみた。
どこにも彼女の姿は見えない。
急いで交差点を渡る人達、停まっていた車が徐々に活動を始める。目に映るものはモノクロームに変わり始める。人の声も車のエンジン音もだんだんと小さくなっていった。
彼女のいない世界は、こんなにも何もない。音も色も消えて全てが切ない。
カッコの悪い自分を見せたくなくて、今日まで粋がってきた。
吉田に顔だけといわれても仕方の無いような人生だった。外見ばっかで中身のないからっぽ男、それが俺だ。認めたくなかったが、こうして雑踏に紛れて街に立っている自分を振り返ると、結局情けなくて、ダメダメで、人の事も考えられない、しょーもない男だという事が判明したのだ。
笑いがこみ上げてきて、口の端に手の甲をあてた。
こうして、改めて自分で自分のふがいなさを認めてみると、重くのしかかっていた肩の荷をすっきりと下ろした気がしてきていた。