《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
お腹の音が響いた後、彼女の丸い瞳は少し大きくなり恥ずかしいのか頰が桜色に染まった。
そんな彼女を見て、柄にも無く動揺している俺。
「くー、なんだよ。スゲー腹へってんじゃん。食ってけば」
腹が空いてるなら、カレーがあるから食っていけばいい。そう、別に深い意味は全くない。
それでもまだ躊躇しているようだ。
「ドア、俺にいつまで押さえさせとくんだよ。入るなら早くしてくれよ」
「あ、うん」
結局、彼女はカレーの匂いにつられるように玄関に入って来た。
昨日履いていたヒールとは違うベージュのヒールを脱いだあと、上がってから俺がさっき履いていたクロックスのサンダルと自分のベージュのヒールをきちんと端に揃えて置いていた。
ダイニングテーブルに案内して俺は、キッチンへ行く。
「座れば?」
キッチンから立ったままの彼女に声をかけた。
「はい、失礼します」
急いで彼女は、桜色のマフラーを外しベージュのコートを脱いで椅子の背もたれにかけ腰を下ろしていた。
彼女が帰らなかった事に少しホッとしながら、鍋の蓋を開ける。お玉でジャガイモが崩れないように気をつけてかき混ぜた。
白いカレー皿にバターライスを盛り、その上にポークカレーをかけてやる。
カレー用のスプーンを渡すと彼女は、じっと俺を見つめてくる。
ただ、彼女が俺を見ただけなのに、俺ときたら喉をならして唾を飲み込んでいた。
「なに」
「本当に、いただいても?」
「食うために入ってきたんだろ?」
「そうだけど、なんか……突然悪いなぁと」
「いーよ。カレーぐらい気にすんなよ」
「そぉ? じゃあ……いただきます」
彼女は静かに手を合わせた。
艶のあるブラウン色をしたセミロングのストレートヘア。下を向くと顔にかかる髪を指先で耳にかけた彼女。
たったそれだけの仕草なのに、俺の胸がどことなくざわつき始めていた。