《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
綺麗に食べ終えた彼女は、マンション内をぐるりと見渡している。
実は、この部屋、俺のマンションではない。外資系企業に勤めている出来のいい兄貴のマンションだ。
兄貴は、このマンションに少し住んだだけで急にアメリカに赴任することになり、買ったばかりのこのマンションを現在は俺にタダ同然の家賃で貸してくれている。
初めてこのマンションに来た時は、武蔵小杉に出来たばかりのタワーマンション。そのあまりの豪華さに兄貴と俺との差をまざまざと見せ付けられた気がした。
この部屋に入った時に思ったのは、シンプルで整頓の行き届いた、例えるなら不動産屋がマンションの内覧会で用意した生活感のない部屋に似てるなぁ〜と感じた。
昔から兄貴は綺麗好きだった。今現在、仮住まいしている俺としては、結構気を使って生活している。
『お前の好きなように模様替えしてもいいからな』と優しくて出来のいい兄貴は赴任する前に言ってくれた。
家具にしても小物にしてもどれも高級な感じだ。カーテンもガラスのテーブルも替えるとしたら、今より安い物になってしまう。高い物を安い物にあえて取り替えることもないよなぁ〜と思ったし、どうせ俺の家じゃない。また、取り替えることになるなら、模様替えなんてしないほうがましだ。
だから、俺はあえて仮住まいの感じを残しつつ、兄貴のマンションをそっくりそのまま使って生活することにしたんだ。
天井を見上げている彼女。
「あんた、女にしておくの惜しいな」
「は?」
ティッシュで口を拭いている彼女。
「食べ方が豪快すぎる。女じゃねえ」
彼女の斜めに分けた前髪から少し見える眉毛が若干ヒクついていた。
しまった。褒めたつもりが言い方が悪かったのか?
『言葉が乱暴だ』と以前付きあっていた女に良く言われた。悪気がある訳じゃないんだけど、相手は割と傷ついていたらしい。
「よく言われます。じゃあご馳走様でした」
手を合わせた彼女。
ムカついていても挨拶だけはきちんとする人のようだった。