《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
グレーのジャケットを脱ぎ椅子にひっかけてから、白いブラウスの袖をまくりあげ、彼女がキッチンで水を出し始めた。
あのままじゃ服が汚れるかもしれないなぁ。俺は、キッチンにある棚の引き出しから洗ったばかりのカフェオレ色をしたエプロンを出した。
「これ、使えば?」
言ってからシンクの前に立つ彼女の後ろにまわる。
後ろから彼女の腰の当たりに手を回して腰に巻くタイプのカフェエプロンを彼女の前に当てる。
彼女の腰にエプロンをさっと巻いて、後ろから肩に顎が触れるくらい寄り、彼女の体を覆いこむようにして前で紐を結んだ。
なんだ?
いい香りがする。彼女から微かに香りがするんだよな?
知らず知らずに彼女の顔の近くに自分の顔をものすごく接近させてしまっていた。
そのことに気付くのが少しばかり遅かった。
接近し過ぎたせいで斜め後ろに立つ俺を振り返るように見た彼女と、まずいくらいの至近距離で目を合わせてしまっていたのだ。
一瞬……例えようのない沈黙が流れてしまった。
全身が意思とは関係なく熱くなってしまうのを感じる。
やばっ!