《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
「お! お、俺の皿もついでによろしく」
動揺した気持ちを悟られないように、慌てず焦らず、わざとゆっくり彼女から離れた。
内心は心臓をバクバクさせていたし、目が合ったくらいで動揺するチキン男と思われやしないかと心配になってきた。
「ええ? なんでよ」
彼女は泡のついたスポンジを握り締め嫌そうな表情を見せた。
「……ついでだろ」
彼女から離れて、俺はリビングからもみえるキッチンの方を見た。
シンクに立つ彼女の小さな後ろ姿が見えた。水の流れる音がしている部屋。
首を伸ばして出来るだけ彼女の後ろ姿を見てみる。
俺のカフェエプロンが、彼女がつけているとなんとなく最初から彼女のものだったみたいに似合っていた。
エプロンって誰がつけても似合うんだろうか?
彼女が皿を洗っている姿を首を伸ばして見る。
水の音が止んだ。
俺は急いで首を引っ込め、ダイニングチェアに何事も無かったように座る。
少ししてダイニングに現れた彼女。
「終わりましたけど……」
目を合わさずに横を向く彼女は、綺麗に畳んだエプロンをテーブルにそっと置いた。