《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
「いくらなんでも前カレの使ってたカップを客に出さないか。そんな非常識な感じあり得ないよな〜」
ちらっと彼女の顔を窺う。
「そ、そうよ。あり得ないあり得ない」
慌てちゃって、図星なんだ? へえ、お揃いのマグカップねぇ……。
水色のカップを持ち上げて改めて眺めてみる。前カレとか……いたんだ。まあ、この歳でいない方がおかしいか。
まさか今もいるとか?
いやいや、いくらなんでもそりゃないか。今カレがいたら合コンも来ないだろうし、今カレのカップは、さすがに他の男に使わせたりしないだろう。
「ふーーん、そ」
インスタントの珈琲を飲んでみた。
これ、複雑な味だな。複雑な味の珈琲をふた口程飲んで俺は彼女を見た。
「あんたってクマ好きなの?」
「え? あ〜ダッフィーの事?」
「ダッフィー?」
「知らないの? ディズニーの有名なクマだけど」
「ディズニーの有名なクマなら、プーさんだろ?」
「それもそうだけど……」
「俺はプーさんのがいいけどな」
「知らないわよ。あんたの趣味なんか……」
「あんたの趣味ってさ、意外と女の子らしいんだな? びっくりした」
「どうしてよ」
「いや、なんとなく……」
「なんとなくって何よ。凄く失礼なことっぽいんだけど」
ギロッと睨まれて、俺は思わず殴られないように頰を押さえた。