《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
仕方なく自分の前に引き寄せたラーメンの器。

三浦に根負けした私の前には、スープをたっぷり吸って、のびきったラーメンがあった。


「うめーこのしょうが焼き」

横で三浦がおいしそうにしょうが焼きを口に入れている。


私はすっかり膨張し、やわらかくなった麺を箸でつまみあげて震えた。

伸びた麺は箸で持ち上げると、その度にちぎれてぽたりと落ちていく。

もう嫌だ。
たくさんだ。いろんなことが嫌になってきた。

仕方なく押し付けられた豚骨ラーメンをすする。麺に吸収され、ほとんどなくなっている生臭いスープは、なるべく飲まないでおこう。白濁したスープには脂が浮いており、何故か虹色に輝くチャーシューが危険な匂いをかもし出している。

カウンターに置いてあるおろしニンニクをスプーンで入れてみる。

ひと口食べて箸が止まる。震えながら、続けて食べていくラーメンは終わりがないくらいに倍増していた。

ラーメン屋を辞めて、おじさんには、ぜひ定食屋になってもらいたい。どうして、ラーメンにこだわる必要があるんだろうか? 定食屋でいいじゃない。

でも、ラーメンにこだわりたいなら、それもいい。こだわりを持つのは決して悪いことじゃない。私もこの際、こだわりを持つ事に決めた。

箸を握りしめて、食べきれない量になっている麺をガン見する。

決めた! 絶対! ぜったいにこの男と、この店のラーメンには、金輪際関わらないから!!
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