《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
ほんとになんて情けない。
完全に朝からついてない。
うつむいている私の耳元で、後ろから三浦が囁いてきた。
「あんたって俺の好きな髪の香りがする」
そう三浦に唐突に言われ、不本意ながらもそんな場合じゃないのにドキッてしてしまう?
こんな時に私ったら馬鹿みたい。三浦なんかにドキってするなんて。
私の横に並んだ三浦。
三浦の顔が見られずにうつむく。
下を向いたままでいる私の肩を三浦が軽くポンと叩いた。
「会社、行かねえの?」
と言って私の前を歩き出した。
ああ、そうだった。会社……行かないと。
ん? 会社は行くけど……。
万里の言葉を思い出していた。
『この前、合コンした人達の会社って、うちの会社にすご〜く近い場所にあるんですってね〜。あ、先輩は知ってるか……あのイケメンから聞いてますよね〜?』
恵比寿駅に会社があるとは、合コンの時に天バーの益岡さんが話していた。だが、近くのビルだとは知らなかった。
もちろん三浦から私がそんな話を聞いている訳がない。いろんな話をする仲じゃないんだから。
三浦の背中を見ながら、トボトボと歩き始めた私。
もしかして……降りる駅も同じだと乗る電車も同じだろうか?
ビルも近くだと駅を降りてからも、やはり一緒だったりするだろうか?
それは非常に困る。
恥ずかしいやら情けないやらで、絶対にこれ以上一緒にいたくないのに。
足を止めて階段を上がる三浦を見ていた。沢山の人の背中に紛れていく三浦を背中。
なにも一緒に行く必要は無い。そう、一緒に行こうとは、一言も言われていない。
後ろを振り向かない三浦の背中を確認した後、私は辺りをキョロキョロしていた。
どこかへ一旦隠れて、電車を一本やり過ごせば良くない? その方がいい。