《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』

何秒か三浦の瞳の形、色、そこから放たれる光に見惚れていた。私の方も穴があくほど、じっと見られ続けていた。

電車が会社のある恵比寿駅のホームに入ると三浦が唐突に手を離した。

なんだか手に掴まれていた余韻が残っていて変な感覚だった。ドキドキも収まらず続いたままで、どうしたもんかと胸を掌で押さえた。


ホームに降りてから、三浦が私を振り返る。
「あんたさ、なんだかんだ言っても女なんだな」

「はい?」
女に決まっている。もうすぐ30だが、女をやめた覚えは一度も無い。

一応、この先も女を続けるつもりだ。また、私に対して嫌味を言うつもりなんだろうか?
それなら、私も女だ。受けて立つ!

「ねぇ、なんで同じ電車だったの? まさかさ……」
嫌味を言われる前に先手を打つべし。

「私を待ってて乗ってきたとか? あははは〜」
自分でも言ってて、馬鹿らしくなってきた。この三浦が私を待つ訳が無い。待つ理由が全く見当たらない。

それなのに、三浦の瞳が大きく見開かれた。ついでに口が『あ』の形に開いている。


「私と一緒に通勤したかったとかね〜。あははは〜」
すぐに文句が返ってくるだろうと、身構えていた。だが、三浦の見開かれた瞳がもっと見開かれて、唇が真一文字に結ばれた。

重要なことは絶対言わない、言ってたまるか! って口を閉じていた。その感じが敵に囚われた挙げ句、拷問に耐える戦士のようにも見える。

しかも、予想外な三浦の反応は続いた。

耳まで真っ赤なのだ。まだ、3月なのに凄く暑がりなのか?

なんなんだ? この人。
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