高のち飛車、ときどき猫
正に奈落の一歩手前、その時だった。
『ちょっとじいちゃん! 変なの飲ませようとしないでよ!』
直前でカロンを止めてくれたのは。
助かった?
まるで地獄に垂れてきた蜘蛛の糸。オレは不覚ながら、この女が救いの女神に見えてしまったのだ。
だが心奪われたのはほんの一瞬。まだまだ予断は許さない。
ここは地獄。まだ天国ではないのだ。
獄卒にも気まぐれはあろう。
『怖がってるからあっちいって』
女神の鶴の一声で、カロンは物悲しそうに引っ込む。
同情はしないが、老人とは何時の時代も哀しい存在だ。
『は〜いもう大丈夫よ、怖かったねぇ』
女の暖かい掌がオレ達を包み込む。
「暖かい……」
「ママみたいだ!」
単純な兄弟達はすっかり懐柔された感があるが、オレはそうはいかない。
これは孔明の罠だ。