柔き肌に睦言を
一瞬きょとんとした睦美は、しかしすぐにいたずらっ子のような表情で微笑んでみせた。
「なになにモデル? ほんとに? ヌードかしら」
睦美をモデルに絵を描けたら、この上なく幸せだと思った。夢に出てきたとき、私の深層心理を表しているのだと感じた。思えば賞を取れたのは睦美モデルのあの絵だけだったし、まさに睦美は自分の行き詰まった状況を好転させてくれる女神様のような気がしていたのだ。それゆえ、こんな緊張するところまで出張ってきたわけだが、収穫は大いにあった。
「しょうがないなあ、一肌脱いであげるよ」
二週間後、私の自宅兼アトリエにて文字通り脱いでもらったのだったが、二週間も間があいてしまったのは睦美の諸事情によるものだった。私は、その間に睦美が心変わりしてしまったらと、内心ひやひやして過ごした。
本当に脱ぐんだ、恥ずかしいんだけど、などといいつつ、大した躊躇もなく睦美は脱ぎ始める。春らしい薄桃色のトレンチコートを、次に白いニットのワンピースを、そしてグレーのタイツとベビードール、ベビードール!?
「それ、ベビードールってやつ? かわいいねえ」
私は思わず口にした。肩のストラップに小さな花が散りばめられ、胸元には控えめなフリルと花。太ももの付け根あたりの裾にもフリルとやっぱり花が散りばめられていて、そのすべてが睦美の肌と同じく白いのだった。
「えへ。脱ぐかもって思ったら、なんか気合い入っちゃって」
「すごく、似合ってるね。脱いじゃうのもったいないくらい」
「ありがと。うれしい。男って、勝負下着なんて見てないんだってね。早く裸が見たいと思うだけなんだって」
言いながら脱いだタイツを手早く丸める。ベビードールの裾に手をかけてまくり上げ、脱皮するみたいに頭から脱ぐ。直視するのは悪いので、私は横目でチラ見する。睦美は背中を向けたけれど、たわわな胸が揺れるのがわかる。早く裸が見たい。
「その点、しのちゃんは女だからいいよね。ちゃんと下着かわいいって言ってくれるし」
ごめんなさい、そんな魅力的な体を前にして、やっぱり下着だけじゃ我慢できない。私は心を落ち着かせるために、イーゼルの横の台に絵の具を並べた。
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