隣に座っていいですか?
「掃除するから早く厨房に入ってよ」
お父さんとお母さんを台所に追いやり、私は店の掃除を開始。

頭を使いたくない時は
身体を動かすに限る。

「郁美ー」

「何?」

「風邪か?風邪薬がこんなとこにあるぞ」
お父さんが低い声を出し
お店のカウンターの上に置いてある風邪薬を持ち上げる。

あ、しまった。
そこに置きっぱだった。

「ちょっとね。戻しとくわ」
焦り気味で奪い取り
エプロンのポケットに入れて作り笑い。


桜ちゃんに見せたんだ。
『これを飲ませて寝かせたから、もうお父さんは大丈夫だよ』って、すると桜ちゃんは顔を名前の通り桜が咲いたような笑顔で『ありがとう。いくちゃん』ってまた抱きついてきたんだ。

いや
本当は飲ませなかったけど。


田辺さん

熟睡できたかな。
長いまつげの寝顔を思い出す。

『郁美さんがいると熟睡できそう』
そんな発言されると

余計に胸が苦しくなる。

きっと
何も考えてないんだろうな
何も考えず
そんな事言ってるんだろうな。

罪な男だな。



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