隣に座っていいですか?
すっかり春めいて
風がほんのり温かくなった頃
桜を連れて散歩に出かけた。
「疲れたら言うんだよ」
声をかけると
「桜はもう年中さんになるから、つかれないよ」
元気に答える。
もう年中さんか。
小さな商店街を抜け
帰ろうかと思っていると
見事な豪邸を見つける。
三階建てか?
すごいな
どんな人が住んでるんだろう。
感心してたら
「お父さんキレイ」
桜の声に足を止め
しっかり見上げると
そこには
大きな桜の木。
桜……妻が大好きな桜の木。
淡い色が重なり
見事な枝ぶりを見せ
僕と娘を歓迎している。
敷地に桜の木があるんだ。
豪邸よりも
その木に目を奪われる。
魔法にかかったように
身動きとれないでいると
「郁美!店の掃除ぐらいしなさい」
「休みの日ぐらい解放してよ!」
そんな会話が聞こえ
ふと隣を見ると
そこには
小さなそば屋があった。