隣に座っていいですか?
ブツブツ言いながら
庭ぼうきを持ち
店の玄関前を掃除する女性。

ジーンズにパーカー
ごく普通の薄化粧の女性。
そんな彼女に目を奪われる

横顔が妻に似ている。

さりげなく
正面の顔を見ると
全く似てないのだけれど

横顔が似ていた。

「お母さん」
桜が先に声を出したので
慌てて桜の口をふさぎ

小走りで豪邸の塀に隠れる。

妻より若いかも
顔色も良く
動きが手早く
掃除の仕方
店の奥から聞こえる両親との掛け合いを聞いていると、何だか心が和んでいた。


「お母さん?」

「違うよ」

優しく桜に言う。

桜は妻と似たような面影を見つけると、すぐ『お母さん』と聞き僕が否定すると寂しそうな顔をしていた。

僕は桜と額を重ね
微笑んでから

豪邸をもう一度見つめる。

この家に住みたいと

妻が亡くなってから
一度もそんな希望を持った事がないのだけれど……なぜかその時、強く思った。
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