隣に座っていいですか?


幼稚園も夏休み

私の古臭い
子供の頃の浴衣を取り出し
桜ちゃんに着せるお母さん。

「可愛いなぁ」
目じりが下がるお父さん。

「似合ってるわよ」
隣の恵子おばさんも
扇風機に当たりながら店の椅子に座り、浴衣姿の桜ちゃんを鑑賞。

桜ちゃんは嬉しくて
サラサラ髪をなびかせ走り回る。

赤い生地に小さな梅の花が咲いている。
白・黄色・オレンジ・ピンク
もう20年前の
和風レトロな浴衣だけれど
桜ちゃんに良く似合っていた。

「郁美ちゃんに似てるわね」
恵子おばさんが言うと、桜ちゃんは満面の笑みを浮かべる。

「私、こんなに可愛かった?」
ふざけて言うと

「確かに似てるかも」
ビール片手に達也がうなずく。

「その浴衣着て、俺にケリ入れてリンゴ飴を奪った」

「へっ?」

「忘れられない悲しい想い出」

そんな遠い目で語られても
都合悪い事は忘れる主義なので、笑うしかない。

「お父さん早く来ないかな」

桜ちゃんの言葉に
心臓ギクリ。

今日は小さいけれど
近くの河川敷で花火が上がる。

田辺さんは桜ちゃんを連れて、これからおでかけらしい。

来る前に
どこかに逃げようか……。

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