隣に座っていいですか?
婚約者も意地になってるのだろう
桜ちゃんの腕を荒々しく引っ張り、起き上がらせようとしている。

「乱暴はよしなさい」
田辺さんが婚約者の手を取ると、婚約者は田辺さんの胸に抱かれる形で入っていった。

あ……。

婚約者の綺麗な髪が明るく輝く

私の髪は
ゴミがのってるだろう。

「紀之さんひどい。私はあの子の為に汚らしいぬいぐるみを処分して、新しいのを買ってあげたのに、私の気持ちを無視して……こんな嫌味な事をしている」

女性らしい甘えた声。

「せっかく、いいお母さんになろうと思っているのに」
その言葉に
桜ちゃんは大きく叫ぶ

「さくらのおかあさんはひとりだけだもん。ゆいさんはちがうもん。ゆいさんなんてきらいだもん」

そしてまた道路で大泣き。

「ちょっと。いい加減になさい!」
田辺さんの胸の中で
鬼のような顔になっていた。

美人が台無し
いや
こっちの顔の方が
本当の顔なのだろう。

朝から痴話ケンカ。
近所の人達も出てきたよ。

きっと今日中には広まるね。

私は肩をぐるぐる回し
泣いてる桜ちゃんの傍に寄り
ゆっくりと
なるべく穏やかに話始めた。

「クリーニング屋のおばさんの所へ行こうか」

桜ちゃんの嗚咽が止まる。
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