隣に座っていいですか?
「桜ちゃんだってお風呂に入るでしょう。だからクマちゃんもお風呂に入れてあげようよ」

「……おふろ?」

「うん」

何とか会話が繋がりそうだ
上手くやらなければ

「いくちゃんといくちゃんのおじさんとおばさんで行った、スーパーせんとうみたいなとこ?」

泣きすぎた顔が痛々しい
涙を拭いて上げたいけど
私の方が汚いだろな。

「ううん。ぬいぐるみのお風呂屋さん。うちの隣の恵子おばさんのお店」

「さくらのクマちゃんもおせんたく?」

「そうだよ。今ゴミの袋に入ったし、たまにお風呂に入れてあげたらクマちゃんも喜ぶよ。身体の毛なんてモフモフになって帰ってくるよ」

「クマちゃんうれしいかな」

「うん。夏も終わりそうだし、クマちゃんも汗かいたかも」
そう言うと
桜ちゃんは涙を止め
立ち上がり私の手を取る。

私は桜ちゃんを連れて
田辺さんと婚約者の前を通り

「ちょっと連れて行きますね」
小さく言い
2人を無視して
ふらつきながら恵子おばさんの店に桜ちゃんと行くと

かなり驚かれた。

そうでしょう。

ゴミまみれの私と
パジャマで裸足の幼稚園児

そしてクマのぬいぐるみ。

「できたら届けるね」
優しくおはさんに言われ
桜ちゃんもいつもの笑顔に戻ってくれた。

あぁ
よかった。

そして
お母さんに電話して
こっちに来てもらい
桜ちゃんを抱っこして、店に連れてってもらった。

朝から疲れた。

「郁美ちゃん」

「何?恵子おばさん」

「あんたを直接洗濯機のドラムに入れたい気分」

私も
入りたい気分ですわ。

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