隣に座っていいですか?
「大丈夫」
柔らかい声が
私の心を解いてゆく。

田辺さんは私の肩を優しく抱き
そっと
顔を近づけ
私の額に口元を寄せる

「大丈夫」
優しい声が囁いていた。

その腕の中
私は甘えて身を預ける。

お酒に弱いのに
ワインの一気飲みが効いたのか
私の心と体はフラフラ。

「郁美さんは悪くない。今回の件は僕が全て悪いんです」

田辺さんも酔ってるのだろうか
距離が近すぎる。

ワインって強いのかな
心音がうるさいぐらい
ドキドキしてる私。

「桜の為にって、好きという感情もないまま再婚しようとして……」

「好きじゃないって?」
意外な言葉に驚き顔を上げると

本当に目の前に顔があり
また心音が高くなるので
慌てて顔を下ろす

「相手にも失礼ですよね」
深いため息が頭上で降る。
私は何も言わず
彼の胸の中で小さく身を埋める。

「奥さんに先立たれ、娘がひとり。職も安定してるとはいえずお金もなし。家は桜の名義だし」

たしかに……。

「こんな僕に再婚話が上がって、桜の為にと話にのって」

愛情は
なかったのか

「結衣さんには申し訳なかったと思います」

真面目な田辺さん。

「婚約者の方には悪かったけど、私は桜ちゃんの為に、これでよかったと思います」

愛情がなかったと聞くと
気持ちが楽になる。

これが田辺さんが好きだったら、本当にブチ壊しだもの。申し訳ないけど安心した。

でも頭から離れないのは

『身体の相性も最高』発言
気にしてもどうにもならないのに
気にする私は
ダメな女。

気分を変えよう。忘れよう。
< 153 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop