隣に座っていいですか?
彼の指が
私の頬を愛しく触る。

うっとりと目を閉じながら
色んな事を考える。

何も考えず
このまま二人の時間を過ごしたいのに

大人って

やっかいだ。

そして
きっとそれは
目の前の彼も同じなのだろう。

「背中痛いでしょう」
そう言われて私は笑い
目を開き
彼の手につかまり身体を起こす。

また
一緒に肩を並べて

夜風に当たり
大きな桜の木を見上げる。

スタートに戻る。
ゴールは見えない。

もどかしいくらい
伝えたい想いは
互いに沢山あるのに

もどかしいほど
伝えられない。

「今の僕に一番必要なのは『自信』かもしれません」

田辺さんの声は心地良い。

私はうなずき

「それは私も同じです」

素直に言う

「桜ちゃんが……今日、言ってましたよね『桜のお母さんはひとりだけなの』って、はっきり言ってました」

田辺さんは何も言わない。

「亡くなった奥さんの存在が、今……とても大きく感じます」

押しつぶされそうです。

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