隣に座っていいですか?
一緒に進もう
それから
普通の日々が始まる。
長い夏休みが終わり
幼稚園も始まって
発表会の練習も
重ねて始まったらしい
桜ちゃんは張り切っていた。
「さくらはヒラメさんのやくです」
そう言って
幼稚園の帰り道、うちの店の前で魚の踊りを踊ってくれた。
浦島太郎をやるらしい。
懐かしいチョイスだな
逆に新鮮か?
「ほんとうはコンブさんをやりたかったけど、じゃんけんでまけました」
残念そうに教えてくれた。
コンブかいっ!
てか
コンブ人気だったのかい。
最近の幼稚園児
わからんわ。
「いくちゃん」
「はい?」
「さくらのヒラメさんみにきてくれますか?」
お誘いだな
『喜んで』って即答しようと思ったけれど……田辺さんの顔が浮かんで返事ができなくなった。
嫌だ私
何を意識してんだ。
お隣さんだぞ
普通にお隣さんで
きっちり線を引いたはずなのに
あれだけ泣いたのに
まだ
その割りきれてないのか。
黙っていると
「いくちゃん」ってまた呼ばれる。
「はい」
「こんどのあおい日はいますか?」
青い日?
カレンダーの青い日って
土曜日の事だな。
「いるよ」
休日無しですから私。
「ぜったいぜったい、ぜーったい。おうちにいてくださいね」
何度も念を押され
桜ちゃんは指切りまでして
走って家に帰って行く。
指切りしたから
居なきゃ。