隣に座っていいですか?
「家族になって下さい」
バラの花束が
香りと共に胸元に届く。

「桜に母親が必要とか……そんなんじゃないけど、いや……それもあるけれど、その前に僕自身が貴女を必要としている」

いつも穏やかで優しい人が
真剣な顔で一生懸命、言葉を伝えていた。

「郁美さんと一緒に歩きたい」

私はその言葉で膝が崩れ
近くにあった椅子に座り
綺麗な花束で涙を隠す。

「いくちゃん」
そっと傍に来て
桜ちゃんは私の顔を探し

「さくらがいやですか?」

寂しそうな声を出し
とんでもない発言をするので
私は慌てて

「大好きだよ」と
大きな声で否定すると、桜ちゃんは笑顔を見せて田辺さんのスーツを引っ張り

「さくらのお父さんはいやですか?」
って言われて

そう

言われて

「大好きです」って
小さな小さな声で返事をする。

大好きです

田辺さんが大好きです。

こんなにも
こんなにも

桜ちゃんと田辺さんが

大好きです。

< 162 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop