隣に座っていいですか?


最近
お仕事も忙しそうな彼

ありがたいけど
集中するタイプなのか
仕事部屋では
あまり会話はできない。

コーヒーを持って部屋に入ると

「ありがとう」
きちんとお礼を言ってから
またパソコンへと向かう。

「田辺さん」
邪魔になるかもしれないけど
ごめんね
少しお話したい。

彼を呼ぶと

「何です?田辺さん」

ニコリともせず
普通に言われた。

そうだ
籍を入れたから
私も田辺さんなんだよ。

モジモジしていると

「何かありましたか?」
今度は椅子をクルリと回し
顔を見て聞かれた。

話が長くなって
仕事の邪魔になるかな

私らしくなく
言葉を濁していると

「思い出したらいつでも言って下さい」
そう言って
またパソコン前に戻ってしまった。

これじゃダメじゃん。

「挙式の名簿なんだけど」

で……言葉が止まる。

ご両親に会った時の
彼の嫌な顔が蘇ってきた。

「何か?」

「えっと……あ、イケメン作家がお友達で驚いた話。一緒に写真とか撮ってもらえるかなーとか……思ったり……して」

心にもない
全然違う話でしょうが。

でも彼は微笑み

「大丈夫だと思いますよ。冷たい顔してるけど優しい男なので」

「そっかーよかったー」
あははと心無く笑っていると

「本当は違う話なんでしょう」

声が鋭い。
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